利益を出すための話
出店は大きな投資を伴い、損益を長期で規定してしまいますので、最初の調査の役割は重大です。
①商圏調査:まずはデータ上で当該地域(市・区レベル)の商圏調査を行います。
➁施設調査: 次に商業施設の場合はそのデータを知ることが重要です。
③実地調査: これに基づき実地で調査を行います。 客導線、通行量、客層、視認性、地形(じがた)です。
地域の人口と小売売上高の大きさがまず出店可否の大きな目安になります。 扱う商品の購入頻度と価格帯によって必要な商圏の人口や小売規模が変わります。 食品等の毎日買う比較的安価ないわゆる最寄り品は小さい商圏で成り立ちます。 何店か比較するアパレルなど買回り品は中規模が必要、そして購入頻度が低く単価も高い家具のような専門品は大きな商圏が必要です。
特定の年齢層を狙う場合はその年齢層の人口の多寡をチェックします。
商業施設に入居する場合は施設側が商圏の人口データや競合データを細かく持っていることが多いのでそれを参考にします。 地図上で示されていることが多いので、自店競合もチェックできます。
買回り品の場合は、その商業施設での同業種の合計売上規模が、自社の売上見込みと最も強い相関を示します。 同業他社が多いほど集客力が上がり自社の売上にもプラスのなるということです。 競合他社がいることはマイナスではなくプラスなのです。
また、商業施設内のフロア別、エリア別の売上構成、客導線の情報も入館者の入口別のシェアも含めて入手しましょう。 好ましい主導線や避けるべきエリアが見えてきます。
顧客の属性についてもハウスカードがあれば詳細に持っています。
最後に実地調査。 いろんなデータを見たうえで現地を実際に歩いてチェックします。 できればまずその地域全体でどういう人がどこに買い物に行くのか、という全体像をつかみます。 地元の人は買い物にもそれなりの経路のパターンを持っていて、それは簡単には変わりません。
次に当該施設の調査です。 まず通行パターン(トラフィック)を把握します。 どこをどちらに向かってどれくらい通っているのか。 これが売上を大きく左右しますから入念に調査します。 最低限朝(開店直後)、昼、夕方(繁忙時間)、それを平日、休日でわけて調査します。 と言ってもカウンターをもって座り込んで調査するわけにいきませんから、 候補地前で1分間の通過人数を何回か数えて平均する、というような簡易的な方法で構いません。
同時に競合他社の立地の確認。 競合はある方がよいのですが、見劣りする立地ではブランドとして好ましくありません。 それで業界序列が決まってしまうようなところがあり後々の出店にも影響するので、同業の中での相対的な立地の良しあしには強くこだわるべきです。
また、店舗デザインもこの段階で施策してみることがお勧めです。 地形が設計上不具合がないかどうかをチェックするのと同時に、建築規制についての協議もするためです。 施設内には建築基準法的なルール以外に施設独自の建築、装飾の規制がある場合が多く(特に百貨店)、それがデザインの障害にならないかを事前にチェックすべきです。
販売戦略を立てるためにはまず消費者の購買行動を考えてみましょう。 まず大多数の消費者は買い物をはっきり決めずおおよその選択肢や何かあればという程度の意思で来店します。 最終決定は実際に見てから、と思っています。 とはいえ、それがないと困るかというと、そういうことまずありません。 なので、何か背中をもう一押ししてくれるものを待っている、というのも確かです。
しかし現実にはピンとくる商品がなかったり、値段が予算と合わなかったり、色やサイズが欠けていたりで空振りに終わることも経験上知っていて、それはなんとか避けたいという気持ちもあります。 消費者にとって何も買わずに帰ることが満足度ゼロの状態と言えるのです。
こう考えると売上金額というのは売る方の満足度でなく、消費者の満足度を示すものだと考えることができます。 販売スタッフは満足度を高めるためには最大限の努力をすべきなのは当然のこと。 販売とはまさに顧客満足を届ける行為なのです。
この認識を持つことで販売という仕事に誇りを持ち、自信をもって業務にあたるとともに、消費者に満足を与える仕事の喜びを実感できるようになります。
経営戦略には3つの戦略軸があります。
①何を売るか=商品戦略 (Merchandising)
②どう集客するか=集客戦略 (Marketing)
③どう売るか=販売戦略 (Sales)
ただし長期的にみると、もうひとつあります。 がここでは上記3つの軸で考えます。
④どこで売るか =出店戦略
各戦略軸は異なった部署が受け持っており、たとえ同じ売上目標を達成するときでも、それぞれで違った数字を追っています。
商品戦略: 売上= 商品A + 商品B + 商品C ・・・
集客戦略: 売上= 新客売上 + 既存客売上 (メディア X レスポンス率)
販売戦略: 売上= 客数 X 客単価 (商品単価 X UPT)
同じ目標に対して常に3方向からの計画と検証が可能ということはそれだけ計画達成の精度が3倍に高まります。 常にこの3点からの検証をすべての部署で行うことがとても重要なのです。 売り上げは単一の部署で作れるものでは決してありません。
その理由は、消費者の購買行動には各戦略の要素が複雑に絡み合ってできているからです。 だから一つの目標に向かって3つの戦略軸それぞれが強い戦略を持ち、かつ3つが連動してはじめて結果が出せるのです。 どれかひとつが欠けても結果は出ません。
店舗では人目を引くための展示や陳列が重要です。 ショーウインドーに代表される飾りつけは季節感を表し商品の購買喚起をそのブランドらしく表現する、一種の芸術とも言えます。 このような飾りつけをVP(Visual Presentation)といいます。 同じように展示・陳列を表す言葉にVMD(Visual Merchandising)がありますが、こちらは全く別物です。
VMDの目的は「計画した数量通りに販売する」ことです。 売れたらいつでもいくらでも補充できる商材なら、売れ行きが良ければ展開面積を増やせばよいのですが、自社ブランドのアパレルや服飾雑貨などは販売計画に基づいて生産が行われています。 したがって、すべての商材を計画通りに販売しないと売上目標が達成できません。 これを行うのがVMDなのです。
各店舗には必ず消費者の回遊する導線があります。 一番たくさんの人が通る主導線上でしかも最初に触れる場所が一番売れる場所であることが多いし、奥に行くほど販売の可能性は低くなるでしょう。 このように同じ什器でも場所によって売れ行きが違うことを利用すると、場所別什器別で売上予算を配分することができるのです。 これがVMDの考え方です。 何をどこにどれだけ置くか、を決める作業です。 計画数量が多い商材を売れる場所の什器に置く。 これを順番に繰り返すわけです。
次に、売上を上げるためには関連商材の販売も重要な要素ですがこれにもVMDが貢献します。 関連商材、コーディネートして同時に購買してもらえる商材を一緒に見れる場所に配置する。 これもVMDの役割です。 このようにVMDは数字の裏付けがあっての手法です。 したがって、実際に販売開始後に計画と違いがでてきた場合には、VMDの見なおしにより計画に近づけるよう修正することも可能です。 このようにしてVMDによって計画通りの売上を実現していきます。
マーチャンダイジングを担当する商品部門の責任数字としては、まずは売上があげられます。 それに加えて商品の生産にも責任を持つ立場ゆえ商品原価にも責任があるでしょう。 また売れ行きによって消化を促進するための値引きの判断もあります。商品原価と値引きは最終的に粗利益に影響します。 売上と粗利益を大きくするだけなら在庫は多く持つに越したことはありません。 しかしそれが経営に悪影響を与えることは明白です。 明白なのですが、在庫過多の経営への悪影響がどれくらいなのか、については把握が曖昧で精神的なものだけである場合もあります。 これでは日々の業務で高収益を実現する仕組みとはいえません。 アメリカの小売業で一般的な方法としては、展開終了時に残った在庫についてはすぐアウトレット担当部署に移管してしまうのですが、その際に商品原価の一部を割引して渡します。 過剰在庫を外部の処分業者にディスカウントして販売するのと同じ考え方です。 その際の原価の割引分(Write Off)として把握します。 最終的に、商品担当(Merchantといいます)の責任数字は、売上から原価・値引きを引いた粗利益(Gross Margin)からさらにこの在庫処分のための割引額をひいた額=Merchant Marginとなります。 これが売上、原価、値引、在庫のすべての要素を加味したうえで会社に貢献できた利益額を表します。