利益を出すための話
能登の震災から一か月近くたつ。 まだライフラインも復旧していない状態だが、今後の復興には1兆円以上が必要とされている。 阪神淡路では約10兆円、東日本では15兆円が復興に使われたといわれている。
この金額は、あとからいろいろ集計するとこうだ、という感じで世の中にでていきてる。 当初計画での必要資金見積額とその根拠は妥当か。 途中段階での進捗チェックと計画の修正が必要か。 これらについて大きく報じられて議論にならないのは、世論が無関心だからに尽きる。 世の中が関心を寄せるのは発生当初の無残な姿や途方に暮れる人たちの映像。 その時の義援金やボランティア活動をやることで満足しやがて忘れてしまう。
しかし肝心な復興はそのあと始まるのだ。 そしてその費用はとてつもなく大きく、我々が働いた法人税と所得税によってしか捻出することはできない。 その意味で国民は長年にわたり税金の形で復興支援をしている。 しかしその使われ方に無関心では「被災地に心を寄せている」とはとてもいえないのではないか。 数字で検証することをクセにしないと、物事を情緒的で表面的なところしか見れなくなってしまう。
営業の現場にはいろいろな数字があります。 たとえシステム的に数字を集計していなくてもPOSデータがあったり、少なくとも出荷データはあるはずです。 それらを重視せず主観的な意思決定が優先される理由のひとつに、「数字を見ても現場はわからない」というのがあります。 確かに経験に基づく勘は貴重で、おおむね正しいと思います。 でもそれは過去のデータの記憶に基づくもの。 データでは現場はわからないという根拠にはなりません。 もしそうなら、集めるデータやその見方に問題があるわけで、そこを修正すればよいはずです。 そうすれば経験に頼る判断よりも正確に現場を把握できるのです。
もう一つ、主観的な意思決定は部下の思考力を奪います。 上の言うことだけを聞いていればよい、という仕事になるしかないからです。 そうなると、成長は年数の長さによる経験の蓄積と人脈だけになります。 今の時代、そんなに悠長に自身のキャリアプランを考える人はいません。 もっと成長を実感できるところに行ってしまうのは自然なことです。
データに基づく営業思考は貴重なノウハウとして蓄積されていきます。 客観的なデータを元に判断すればいいので、自分で意思決定をすることが可能になります。 これは大きな成長と同時にやりがいにつながります。
リーダーにとって最も大事な能力は何か? こう聞かれたとき、「人間力」というのはひとつの答えになるでしょう。
では人間力とは何か? 懐の深さ、思慮深さ、行いの正しさ、広い視野と見識、などいろんなことが合わさって、この人にならついていこうと思わせるような力、を思い浮かべるのではないでしょうか。
ならばリーダーを育成するには人間力を鍛えることが一番大事なこと、でしょうか? 残念ながら人間力というのはそう簡単に身につくものではありません。 それには長きにわたり多くの人生経験が必要です。 人に教えることを仕事として訓練していない社員がリーダーを育成しなければならない、しかもその地位についてすぐに発揮できるようなリーダーシップを身につけさせなければならない状況で、人間力を一から鍛えている余裕はありません。
リーダーには地位についてすぐにリーダーシップを発揮してもらわなければなりません。 だから仕事で必要なリーダーシップは業務知識と同じように業務として身に着けることができるものでないといけないのです。
人間力のあるリーダーが持つものは「人望」です。 たとえ業務を離れても人としての信頼は変わらず頼りにされていく、というものです。 しかし業務としてのリーダーシップを身につければ、仕事をする上での「信頼」は得ることはできます。 仕事上はそれで充分なのです。 リーダーとして果たすべき業務ができていれば、リーダーとして自信を持つべきです。 そして時間をかけて人間力をつけて、人望のあるリーダーを目指していくべきでしょう。
経営の対象はそれそれが新規と既存に分けられます。 商品なら新商品と既存の定番。 顧客なら新客と既存客。 店舗は新店と既存店など。
実はこれを分けて考えることはとても重要なのです。 なぜならそこに、「新規へ投資は既存からの利益から」という鉄則があるからです。
新規は企業の成長にとって欠かせないものですが、結果がどうなるかわからないリスクがあります。 大きな投資が必要なのにその費用効率は決して高くない。 そしてそれを賄う利益は常に既存のビジネスだけから生まれてくるということです。 このサイクルを正しく理解することで、高成長と高収益を同時に実現することが可能になるのです。
このサイクルがうまく使えていないケースが2通りあります。
ひとつは新規に比重を置きすぎて収益が上がらないパターン。 売上が成長期であるときに起こりがちです。 実務担当者から見ると、新規こそが仕事の成果であるように思えますから、どうしても新規を重要視しすぎる傾向があります。 たとえば新規商品。 新商品がなければ消費者は全く見向いてくれない、だから少しでも多く新商品を投入する。 しかし、現実には、どう転ぶかわからない新商品ばから増やすより、好結果が出たことが実証されている既存品の方が消費者が購入する可能性は高くなりますし、利益率も当然定番の方が高くなります。 新客に向けた広告には派手さやインパクトがありますが、費用対効果は大きく期待できませんし、それが主目的ではありません。 既存客に向けた緻密なコミュニケーションは少ない費用で大きな成果が上がることは明白です。 既存品、既存客は大きな投資の結果やっと得られた貴重な資産であることを再認識しましょう。
二つ目は、既存の収益性に執着しすぎて新規への投資が行えなくなるパターン。 こちらは成長が一段落したあとで起こりがちです。 新規へのコスト効率が次第に落ちてきて、予算も減ってくると、無難な既存に頼って保守的な運用になってしまうことがあります。 リスクのあるところに向かっていくというスピリットが徐々に薄れてくるので、危険な兆候です。
これらを避けるためにも、新規と既存の役割をよく理解して、正しくサイクルを回すことを心がけましょう。
小売店舗が果たすべき新たな役割、その二つ目は、商品を使う機会と場所の創出です。
世の中にはありとあらゆる物が売られていますが、買ってはみたものの使う機会がない、使う場所がない、というのは多々あります。 所有することに価値を見いだしているならそれでもいいのですが、今の成熟した社会ではただ持っているだけのために買い物をすることに価値は見いだしにくくなっています。 だから、物を売る企業の責任として、使う機会や場所を自ら作り出して提供しましょう、ということです。 モノ消費でなくコト消費、というのはもうずっと前から言われていますが、実現しているところはまだほとんどありません。
今は世界中から集められた様々な商品が売られていますが、それぞれの商材がもともと開発されて売られた場所とは必ずしも環境が同じとは限りません。 例えばアウトドア用品、もともと豊かな自然に囲まれ自然に親しむライフスタイルが根付いた土地でその土地のニーズを満たすものとして生まれた商材のはずです。 華やかな社交界で毎晩のように開かれるパーティーでの装いに必要なドレスやアクセサリー。 食材にしても年間消費量や料理のレパートリーなどその土地の状況とは大きく違います。 もともと洋装のように明治以降に西欧から入ったものは数多く、それゆえその背景となる使う場面とは別に物だけ先に入ってきた状態になっていることが多く見られます。 逆に従来の文化は和装のように機会自体がどんど失われていっっています。 どちらも使う機会が十分にあるとは言えない状態で物だけ売られ続けているのでは、需要に限界が来るのは当然です。 使い道や機会が持てるようにな場を提供すれば、物の価値が発揮できて市場も広がる可能性があることは明白です。 物を売る市場は物を使う市場を開拓することでしか広がらないのです。
すでに、アウトドア用品を買うとそれを使うキャンプ地を紹介してくれて予約もでき、現地でつき方の指導も受けられるという例はあります。 しかし例えばスポーツ用品は店舗で実施に使って試すことはほとんどできません。 しかしそもそも店内で試せないまま買うという方が本来はおかしいのです。 衣料品なら試着できないのと同じです。
そこからさらに進んでいくと、競技会の開催という、さらにチャンスのあるイベント市場の創出に行きつきます。 そうなると商品を購入するモティベーションが大いに高まり、また新たなビジネスチャンスが広がります。 特殊な商材でなくても食品やアパレルでもそのような企画はいくらでも考えられます。 もう一歩先までが小売業の役割だと認識するかどうか、が大事なところなのです。
売って終わりでなく、売ってからがこれからの小売業。 これには無限の可能性があります。